蒼穹のファフナー THE BEYOND

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SPECIAL

2023.09.21

『蒼穹のファフナー THE BEYOND (TV Edition)
テレビ放送終了記念 能戸隆監督インタビュー

『蒼穹のファフナー THE BEYOND (TV Edition)』の最終話テレビ放送を記念して、本シリーズ監督の能戸隆さんのインタビューをお届けいたします。
※最終話までのネタバレを多く含むため、『蒼穹のファフナー THE BEYOND』、『蒼穹のファフナー THE BEYOND (TV Edition)』を最後までご覧になっていない方はご注意ください。

●『蒼穹のファフナー THE BEYOND』のテレビ放送を終えて、今のお気持ちはいかがでしょうか。

制作当初からテレビシリーズという事で制作してましたが、劇場先行上映ともお聞きしてましたので、2019年5月公開で半年ごとにという取り決めで制作スタートしました。
制作期間中にジーベックがProduction I.Gに吸収合併されることが決定し、何とかそれでも制作を進めていると、2020年は新型コロナで緊急事態宣言やいろいろな縛りができて、劇場での公開も延期の連続という経験したことのない事が次々に起きました。それでもスタッフや関係各社様のおかげで最後まで作り終え、公開、パッケージの発売、フードコラボ、イベント、今回のテレビ放送まで終える事が出来、改めて皆様への感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。
テレビ放送の枠もキングレコードさんや各テレビ局の皆さん、代理店さんの方で準備していただき有難かったです。これもまた大変だったはずです。頭が下がりますよ。よりよく『ファフナー』を届ける事を前提に、企業の利益よりも作品を前面に出していただいて、本当にありがとうございます。

●今回のテレビで放送するためのTV Editionを作るにあたり苦労した点はどこでしょうか。

CMなしでも大丈夫というウルトラ凄い事をキングレコードさんから聞かされて、とても驚くとともに、ありがとうございますと。それでも28分以内でという事でした。当たり前ですが。尽力していただいた皆様、本当にありがとうございます。
なので、オーバーしている話数はOPやEDを真っ先に切って、本編をお届けしようと思いました。angelaさん、ごめんなさい。
しかしながら、テレビ放送想定でしたのでいくつかの話数はオーバーしていても、手立てがないこともなく、今回は思っていた以上の尺をいただけたので調整は更に楽でした。ただ、12話は元々OPもEDも存在してなく、フォーマットとして尺オーバーが顕著ですので、断腸の思いをしつつ、ブロック単位で落としました。あのブロックは初期シナリオでは入ってなくて、輝夜と朔夜と総士の会話を聞きたいとか、ノエルとメイがどうなったか出したいとお願いして書いていただいた箇所なので、切りたくはなかったのですが切らせていただきました。気になる方は是非、劇場上映版Original Editionをご覧ください。

angelaさんと言えば、今回、たくさんの曲を作っていただきました。イメージソング1曲、OP2曲、挿入歌1曲、ED4曲という8曲。そして12話の「Shangri-La ~THE BEYOND~」も録り直したので、9曲ですね。ありがとうございました。EDは起承転結で切り替えた感じになります。
『THE BEYOND』を作って、ありがとうという言葉をよく使います。皆さんに感謝です。
あとは、ハーディング対策ですね。映像は光なので、視覚への刺激によって視聴者の方が体調を崩す場合がある為、テレビ放送のガイドラインに沿って検出装置を使い、該当するカットを調整します。どうしても戦闘シーンの早い動きやエフェクトは多少引っかかってしまう為、ギリギリの調整を繰り返しています。OPやEDについては制作初期から意識して引っかからない内容で作りました。

●監督自ら全話数を演出されてますが、こういうのはあまり見ないと思います。かなり大変だったのではないでしょうか。

意図して全話演出をしたわけではないのです。当然、大変な事になりますので。少し前にもお話ししましたが、ジーベックがなくなるとか、コロナ禍において緊急事態宣言が繰り返され、感染対策で少人数という縛りもありました。あとは、ずーっと続いている作品で、しかも登場人物は変えず成長しており、芝居が延長線上にあるため芝居づけが難しくなってます。なので、自分でやろうと腹をくくりました。冲方さんも平井さんも鷲尾さんも、他のメインスタッフは一人で全話担当するので、自分も全話やるぞと鼓舞しました。ただ、自分が倒れると全部倒れてしまうので、健康管理には十分気をつけて無理する感じで。今思うと無謀ですが、ピンチはチャンスですからね。

今回は手の表現を多く使いました。感情表現を手で表し、繋がりだったり別れだったりの時の表現、握手、手をつなぐ、触るなど、自分と外部とを繋ぐものとして手という道具を使いました。人以外でも9話でスサノオとツクヨミの手も繋げてみました。また、12話の真矢と一騎の楽園前のシーンは繋ぐことはできなかったけど、袖を掴む手の動きでその時の気持ちを表現できたのではないかと思います。

ニーベルングの指輪もそうですが、手は第二の脳とも言われ、指の末梢神経により刺激が脳にダイレクトに伝わり、脳の働きを活性化させることがわかっています。指の動きを知ろうと脳が動くので、ファフナーの操作はレバーやハンドルではなく指からの反応速度が最も速いことから二―ベルングの指輪に指を通すとしています。
なので、煮詰まった時は指の体操をします。効果はわかりません。

●『THE BEYOND』 3話後半で真矢が美羽のことを厳しく見ている感じがありました。 最終話に向かってその見方は信頼へと変わっていったように見えますが、美羽に対しての真矢の想いはどういう風に変化していったのでしょう?

自分が全てを背負うという責任感でかなり気を張ってますね。『EXODUS』で母親の弓子を亡くし、それでも気丈に(ビリーの)血にまみれた真矢を抱きかかえた美羽の存在は大きく、守らなければという意識が大きいので、弓子の分も厳しくなっていったと想像できます。まして美羽はフェストゥムの言葉を理解できる稀有な人類ですので、今後の成長も含め、真矢の心のキャパがいっぱいで、親世代とは違う余裕のなさが出てます。彼女の中でこれまで経験してきた蓄積が危険を察知して慎重になっているとも言えます。

あまりの代償に、出来事に、彼らは過去の犠牲者に対しての責任感で死に場所を探しているような感じですが、総士と出会い、彼と一緒に行動する事で、竜宮島の束縛から美羽や真矢も変化して行ったと思います。自らの犠牲を代償とする考え方、自己犠牲を体全体で否定する総士という存在に触れることで化学反応が少しずつ起きていったと考えられます。やはり総士という存在は大きいのでしょう。

また、真矢のターニングポイントは千鶴の死だったのではないかと思います。真矢が手にした写真には、重い立場にある千鶴がいつも優しい表情で弓子や美羽と接している姿。ずっといると思っていた大切な存在を失った時、彼女が残したものを評価してくれる人たちがいる事に「私も母のようになりたい」という思いが目標として、未来を見ることができた。多様性を改めて考え直すきっかけだったのではないかと思います。今後、守るからサポートする方にシフトしてゆくんだろうなと。
自分も母親を亡くした際、遺品に触れて彼女の半生や思いに気づかされた事がありました。悲しみは残りますが、以前よりも少し視点が変わった気がします。

●一騎と甲洋は世界を見にファフナーで飛び立ちましたが、戦いを終えた島のファフナーは、今後どのような役割になっていくと思われますか?

脅威は消えていないのでパイロットの養成は続けて行くのではないでしょうか。里奈、彗、零央、美三香も後輩への訓練は余念がない感じで。衛一郎やフェイもパイロットを志望しているかも。ジークフリードには総士が搭乗しているかもしれません。美羽はどうなっているのかちょっと想像しがたいですが、ルヴィに会いに行き、海神島にザインと常駐しているような。ただ普段は戦闘ではなくて、復興のためのお手伝いでそのパワーを発揮しているので、親しみが持てると良いなぁと思います。
フェストゥムを退け続けた驚異の機体ですので、マスメディアが復活したら放ってはおかないでしょうし、ミツヒロやアイのように英雄視してしまう方も多いと思います。

●フェストゥムの脅威が去った後の人類はどこへ向かっていくのでしょうか。またその際の竜宮島の役割は?

竜宮島は新国連ともども復興に尽力するのではと思います。新国連も世代交代を示唆して、アレクサンドラというキャラクターを出しましたので、きっと良い関係が築けるのではないかと。特に真矢は島で一騎を待っているとしても、政治の表舞台にヘスターあたりが引っ張り出す可能性も高いです。
地表の復興はもちろんですが、脅威はまだ宇宙にあるので、宇宙への関心も大きく、そちらへの進出が盛んになるではないかと考えられます。そして惑星移民が始まって惑星オロンに一隻の宇宙船が不時着する。案外、『ヒロイック・エイジ』に繋がっている気もします。

竜宮島と海神島は、守護と平和の象徴として世界を巡り、その存在は人類の心の拠り所となり、往来も盛んで繁栄してゆくのではないでしょうか。最終話のラストにおいて、今までは偽装鏡面で見えなくなってしまう竜宮島も偽装鏡面を展開せず航行をしてゆくので、その姿を沖合で見た人達は安心できるような感じですかね。希望として存在できる事を願います。

●本編中に登場する小物についてこだわりはありますか。

小物と言っていいのか迷いますが、偵察用ドローンのバードですね。常々、映像を送るカメラはどこにあるのか、どうやって指令室とかは状況を把握できているのかが疑問でしたので、ここで解答を出せました。鳥に擬装しているので視界的にも違和感なく存在しています。ウミネコタイプを運用していましたが、スピードアップや耐久性、更に稼働時間を長くしようと小型軽量化のウミツバメタイプが今作から実戦投入されました。『BEHIND THE LINE』ではまだ試験中だったやつです。海中用のイルカタイプもいます。あれらの格納場所はどうなっているのか興味ありますね。ノルンやサキモリ、トルーパーモデルの格納場所も。
2話で偽島の総士の部屋にあったパタパタ時計のモデルは、学生時代に憧れていて社会人になってすぐ購入し今も現役で動いている私物です。デジタルと違って趣があって、昭和の良い時計だと思ってます。
時計つながりで言うとタナベの目覚まし時計。『EXODUS』1話の長尺版で総士が持っていたストップウォッチと同じ竜宮島のメーカーです。偽島の総士の部屋にあったものと同型の時計をフリーマーケットで手に入れて、止まっていた時を刻みだすという、彼自身が少しずつ進みだしているようなニュアンスを出しています。

総士の服の色が偽島での白から海神島での色物へと移ってゆきます。服もマルトミではなくフリマで買ったとしてますが、何もない白いキャンバスに色が付き始めたという、先述の時計と同じ狙いがありました。僕のものだと言いつつもニヒトの維持管理はいろんなスタッフによって成り立ってますから、そのへんからもひとりでは何もできないという事を本能的に理解して葛藤しているのであろうと思います。
それとメガネですかね。甲洋と操はメガネをかける必要はないのですが、たぶん咲良あたりにメガネかけると一騎が元気になるとか言われたんでしょうね。優しい子たちです。メガネはカントーメガネで購入してます。

また、筆頭は竜宮島真壁家テレビ上の謎人形ですね。こいつはどうしたものか。いったいどういうものなのか。新たにこの人形の設定を起こしました。山岡氏がイカす人形のデザイン画を描き、自身のコンテパートに入れ込みました。制作室に座る史彦が手にしているのは、かつて自分が息子の為に、不器用ながら作ってやった手作りの人形。その人形を持つことで一騎の事を考えているのだなという事がわかります。そしてそこにやってきた一騎が、「ありがとう、父さん」と言う。たぶん、史彦に初めてありがとうを言葉にした一騎だと思います。
あと目立たないですが、12話の剛瑠島の滑走路脇の作業車たち。艦船やフロート付きの輸送機に載せられて、突貫作業で滑走路を整備したんだなという感じで配置してます。この作業車達もAIで運用していて無人のものが多いです。

澄美のお墓にある貝殻もお花の代わりに置きました。土が海水に浸かってしまったのもありますが、日光があまり届かない深海にいたとして、ほとんどの植物は枯れてしまい、その代わりに綺麗な貝殻を芹と輝夜と朔夜が一緒に見つけて置いたと想定してます。そして輝夜と朔夜の成長と芹の目覚めで、アルヴィスも次第にある程度は復旧をしてゆき、三人肩を寄せ合ってきたとして、OP2の「叫べ」に三人の後ろ姿を出しています。ちなみに芹の髪の毛が白いのはアルタイルの影響です。
コアップガラナとかコーヒー缶とか美羽のマグカップとかクレヨンとか、まだまだあって言い始めるときりがないですね。少ししか映りませんがそれぞれ全力で作ってます。

●6話においてバイクに乗ったフェストゥム、グレンデルH型が現れました。以前、『EXODUS』のオールナイトイベントの時にモニターで初公開されたものですが、ここで登場するのか、と思いました。このタイミングで登場に至る経緯はどういったものでしょうか。

『EXODUS』用にデザインしていたものですが、出せる機会がなく残念に思っていました。こいつを出すにはどういう状況になれば効果的に出せるのかを考えました。
小型を生かしてアルヴィス内に突入し、対人戦闘をしてはどうだろうか、ファフナーに乗る前のパイロットやクルーを攻撃する展開はどうなのだろうかという話をして、冲方さんから出たものはCDCへの直接攻撃で司令官とルヴィを潰すものでした、さすがです。頭を狙うなんて。当然といえば当然ですが、なかなかできるものではないです(褒めてます)。
そして、アニラ、シャオ、千鶴の犠牲に繋がるのですが、辛い展開になってゆきます。
アショーカの近くが安全と判断してダムにテレポートしますが、マリスのSDPによってアショーカの力も弱まり、そこにバイク型(通称)がきて窮地に陥ります。この時、千鶴は史彦もそうですが、まだ後ろにいるルヴィやジェレミーたちCDCクルーを守るために、少しでも時間を稼ごうと堤体の上の通路で踏みとどまります。でも・・・・・。
ワームスフィアも実は色々と種類があって、『HEAVEN AND EARTH』から違いが出ています。通常のものより強力な白いスフィアは、暉のマークツェンや里奈のマークノインを破壊しました。

今回6話で千鶴が史彦を押した時のワームスフィアは、それまでと色が違う事に気づいて咄嗟の判断で史彦を押すという行動に出ています。フェストゥムの研究を続けていたから、スフィアの変化にも気づいたのでしょう。史彦を救う事が、彼自身にも、この島にも、残された子たちの未来にも最善だと信じて送り出します。強い人であったと思います。

●デザインしたものの、作中に出せてないというものはありますか。

『THE BEYOND』ではないのですが、『EXODUS』においてシュリーナガルへ派兵の際に、ファフナーへの補給を行うファフナーがありました。武器弾薬を運んで、戦場で換装できるようにしたもの。補給用ファフナーの武装は最小限のもののみとしてラフでは作っていました。武装の運搬補給系としては、レートフェティみたいな位置づけですが、このレートフェティも初期PVに出ていたのですが本編には出ずで、『BEHIND THE LINE』でようやく出番がありました。
あとは、『THE BEYOND』 で剣司用のシナジェティック・スーツを着せたデザイン画もありますが、ファフナーで出撃する出番がなかったので、残念ながら幻と。

●12話における美羽の祝福シーンは何かイメージみたいなものはあったのでしょうか。

脚本の打ち合わせの際に、地球上のフェストゥムが全て空に向かって一斉に飛び去るイメージがあるとお伝えした際に、赤い月を卵子、フェストゥムを精子のイメージで、受精し受胎するというビジュアル案が出ました。たくさんのフェストゥムがマレスペロに向かってもう一度生まれるために上昇してゆく。日本人の受胎能力を奪ったフェストゥムが受胎するという構図は何とも言えないですね。なので、胎児をタイトルバックとして、『ファフナー』の新たな未来はここに帰結し、生命の循環を描いた作品としてあらためて明示しました。あそこのタイトルカットは自分が作画したというのもありますが、ファフナーらしくて感慨深いものがあります。

●12話のラストの方で一騎が総士をモニターに映している際、総士のセリフを無音にした意図はなんでしょうか。

ここはシナリオにはなくて、絵コンテで追加したセリフになります。カメラでそれぞれを映すというのはシナリオ上あってその通りに描いてみたのですが、総士の顔を見てるとなんかしゃべりそうだぞと思ってセリフを足しました。ただ、総士自体は発声はしていないとして、周りの美羽たちには聞こえていないし、口を動かしているのも気づいていないと想定してます。一騎をニコッとさせて島を出したかったですし、第1シリーズ13話において一騎が人類軍のファフナー「グノーシス・モデル」でフェストゥムと戦っている映像を、総士が見た時に、あの動きは一騎だと言い当てたように、きっと一騎と総士ならわかるだろうと発声せず、あのリアクションにしました。二人の繋がりの強さみたいなものを出したかったので。音声を入れると狙っているようで薄くなる感じもしてましたし、二人がわかっていれば良いかと考えてました。またファフナーは、カメラを作動させていましたが、集音はしてません。急に大きな音が入るとダメージを負うので集音はしておらず、マイク機能は特殊な状況以外作動はしません。

ただし、セリフ自体は発声させずともしっかり口を動かさないといけないので、コンテを描いた時点でセリフを足した次第です。その出来上がったコンテを冲方さんに見せた際、こういうセリフはどうでしょうかと更にレスポンスがきたので、自分が考えたセリフはやめて、そちらのセリフに変更して口パクさせています。
「世界を見て回ったら、真実を教えに来い」です。『THE BEYOND』2話の一騎のセリフ「真実を知りたいか」と繋がってますね。

●他に演出意図として伝えたい箇所はありますか。

まず大きくは、この『THE BEYOND』が『ファフナー』という作品全体の集大成であるという事。長い時間をかけて作ってきたからこその『THE BEYOND』でした。20年続けてきたことの祝福であったと思います。
1話は長めアバンでした。絶望的な状況と戦闘、作戦失敗からの希望の子へというアバン的な1話で、挑戦的でしたね。これはファンを信じてないと出来ない事です。
それと真矢の右目の能力をセレノアが奪ったので、アズライールの戦闘において多元視界ロックオンモニターの使用は1話でしかできていないとか、日本神話に出てくる海神の女神の名を冠した豊玉島。そこにあるルヴィの神殿は海と繋がっている水の神殿として、迷い込んだマスノスケが泳いでいたりとか。シュリーナガルも周囲に湖を配置して、バルカに水を貯えたりと、世界樹は水と繋がっているようにしてます。水の持つ、浄化、癒しという意味でも水のイメージが強いです。
7話ラストの真矢の慟哭は、正直どういう表情をつけたら良いのか迷いました。なので、理解が追い付かず気持ちが千切れてしまう感を出すためにブラックアウトさせて声だけにしました。アフレコ時の松本まりかさんの芝居がとても凄くて、逆に表情をつけなくて良かったと思います。あの絞り出す感じの悲痛な芝居は心が震えましたね。流石です。遠い場所でいなくなった場合は、信じられない、嘘でしょという思いがまず出ますが、「ここで」という真壁司令の言葉がファフナーパイロットの真矢としては状況はのみ込みますが、気持ちが否定していてという感情がバラバラな感じの芝居を口だけの絵で見せたりと悩んだシーンです。
それと演出意図ではないのですが、11話の一騎と総士の戦闘シーン中に登場する回想シーンですが、『第1シリーズ』と『RIGHT OF LEFT』のカットについては新規で似た感じに描き起こしています。作画も背景も全部新規で、映像を見てタイミングも測りながら新たに作り直しています。大きな理由としては、画角が当時4:3で左右が足りておらず、単純に左右を足すと絵のおさまりが変わってしまうというのもあり、当時のものと違和感なく仕上げてます。比較してみるとおもしろいかもしれません。

12話における楽園前での一騎と真矢の会話の際のホタルの光。浮上して間もない竜宮島に自然発生している虫などはおらず、もしいたとしても外部から飛来したもののみで、まだ通常の自然の形態になっていない状態です。なので、あのホタルは一騎と真矢を模して、一匹はスピード緩めずに上昇してゆき、もう一匹は途中で緩めてとどまり見送るかのような動きにしています。

ED3のラストの花はシュウメイギク。北海道でも自生して咲いている花です。花言葉は薄れゆく愛。対立している総士とマリスの状況に合わせました。津軽海峡は動物の分布境界ではありますが、植物はあまり関係なく、道南の函館は本州に近い植生です。北海道の植生の境界は海峡ではなく、渡島半島の付け根部分あたりにしていたと思います。
「いってきます」は「必ず帰ってきます」という意味も含まれているので、ある程度の決意が入っています。そして「ただいま」は帰ってくるという約束を果たした言葉。『EXODUS』で必ず故郷に戻るというものの答えですね。いってきます、いってらっしゃい、ただいま、おかえりも作中印象的に使えたのではないかと思います。

●最後に視聴していただいたファンの皆様に一言お願いします。

『THE BEYOND』を最後まで見ていただき、ありがとうございます。
皆さまのおかげで、やり切れました。
自分としては『HEAVEN AND EARTH』までと思っていたのですが、思いがけず『EXODUS』、『THE BEYOND』、『BEHIND THE LINE』と長期間の制作になりました。
『ファフナー』最終章たる今作ですが、一騎は自ら外の世界へ甲洋と行くという胸アツな展開で終えることができました。たくさんの犠牲の中、この世界での最善の未来だと思います。
しっかりと世代交代できたのではないでしょうか。

この先、第三アルヴィスで補給や整備、休息を行いながら、世界を見て回り、年一ぐらいは竜宮島にお土産をたくさん持って帰る一騎と甲洋、そしてルヴィを想像しつつ、これまでの『ファフナー』を観直していただけると嬉しいです。今後も『ファフナー』を是非循環させてお楽しみください。
何度でも。

皆様にとって帰る場所が『ファフナー』であることを願いつつ。

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